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オヤジ達よバーへ行こう4
オヤジCの場合 昔話は自分を昔のままと思い込む
大きな会社というものは全国または世界に数々の支店支社を持ち転勤があたりまえ。
出会った時は、彼が三十五歳 私が三十三歳。
彼が神戸営業所所長だった頃、とにかく体育会系の営業所で、縦の統制が見事にとれていた。
しかし彼の部下に対する愛情は半端ではなく、クリスマスに彼女のいない若い部下を六、七人連れて、飯を食って、私の店で飲んで、夜中までカラオケに行き爆発した。
二時前に閉店し私も合流したのだが、本当に楽しそうに最高に盛り上げていた。
彼も父で、小さなお嬢さん二人居てはるのに、若手のために歌って踊った。
今、そんなオヤジは居るか?
彼の愛弟子の彼女が久しぶりに東京から来ていて、所長、愛弟子、その彼女の三人で来店されていた。
彼女は酒豪で、飲める輩はすべて所長のお気に入りだ。
さあ 何杯強いお酒を飲みほしただろうか・・・
愛弟子は白目むき気味。
彼女 きりりっ!すごい。
「もう、早く連れて帰ってあげなさい」
と先に二人をホテルに帰らせてあげた。
さすが優しい所長だな。
と、思ってた矢先、一人残った所長は
「よしっ これでもう今日はセックス出来んやろ」
「!」
なんと時間をかけた、手の込んだ大人の嫌がらせだ。
そんな彼が約十五年の時を経て、神戸営業所長兼、大阪支店長として関西に帰ってきた。
名刺の頭に、大きな大きな肩書きをもって。
少しも変わってなかった。
むしろ私と店が老けたかも知れない。
帰ってきてから彼にも変化が。
そう、娘さんが嫁いで行ったのだ。
お孫さんも出来て、名実ともに「ジィジ」になった。
数年過ぎた今年、彼はまた東京への辞令が。
移動前に神戸の懐かしい店を食べ歩き、昔の同僚などを引き連れて七名で来店
「いやあ 本当に懐かしい」
と、口々に。
安いバーボンをダブルで五杯ずつ、皆一緒。
飯食って、ビール、焼酎をたらふくあおってからのバーボンだった。
「やっぱり凄いな この頃のオヤジ達は・・・」
皆様が帰られてから、一時間半ほど経った頃に、彼からスマホに、メッセージが届いた。
「マスター、今日も楽しかったありがとう。今大阪に着いてゲロ吐きました。やっぱり、もう若くないですねえ」
昔話の中に 昔のままの自分がいて・・
でも今の自分は そんなに若くない。
オヤジCの飲み物は?
漠然と「安いバーボン」とは いうものの、値段の問題ではない。
日本の酒類、級表示が平成四年に廃止になったり酒税法の改正、並行輸入等の拡大、その他諸々で、昔とても高価だったバーボン・ウィスキーが近年お手軽に飲める。
かといって、「安物」ではない。
懐かしさラベルの柄、響き。
オヤジには分かる「何か」がそこにある
つづく
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